2025年4月、歌舞伎座 昼の部『黒手組曲輪達引』:お気楽な「助六」パロディ!
さーて、歌舞伎座「四月大歌舞伎」2つ目の演目は『黒手組曲輪達引』です。
見た感想をぶっちゃけて言うと──
ダウングレードした『助六』でしょうか?
歌舞伎十八番の中でも屈指の人気演目『助六』と同じ主人公による、いわばちょっとしたパロディ作品です。助六と似たような場面が次々と登場しながら、どこか抜けてる感じで笑いを誘う……。
でも、これはこれでユーモアがあって、そこは楽しく見られる演目です。前の話でほろりとした後なので、ちょうどいい塩梅かもしれません。
では、見ていきましょう。
序幕 忍ヶ丘道行きの場
ここは上野の忍ヶ丘前。二人の男女がやってきます。
遊女の白玉(米吉)と、ブ男の番頭・権九郎(幸四郎)。
二人は吉原からの“足抜け”を謀ってここまで来たのです。
こういう話は、ちょうど大河ドラマ『べらぼう』でもやってくれたので、「あれか」と思った人も多いのでは?
でも、ドラマではお互い好きあった者同士の駆け落ちという形のはずですが…なんかそっけない白玉。ウキウキの権九郎との温度差は誰の目にも明らかです。
すると、ホッカムリをした怪しい男がやってきて物陰に隠れ、それを見た白玉は急に権九郎に「逃げるための金はあるのかい」と問いただします。
何も知らない権九郎。懐から50両を取り出し、「ダイジョーブイ!」と昭和ギャグをかましますが、白玉はスルーして例の男へ聞こえるような声で金があることを伝えます。
すると、ほんとの恋人(間夫)の牛若伝治(橋之助)が登場。
あっという間に50両の金を奪い、権九郎を池に叩き落としました。
『三人吉三』とか『文七元結』とか『忠臣蔵の五段目』とか……
大金持ってるとろくなことにならないのが歌舞伎です。
まあ、金を奪った二人も結局つかまっちゃうんですけどね。
池に落とされた権九郎。
やっとの思いで這い上がり、ここから登場役者名をもじって我が身を嘆く長台詞なんですが──
ここでアクシデント発生!
清元連中を隠すための「霞幕」が出てくるのですが、ねじれちゃって隠せなくなっています!
こういう生の舞台ならではのトラブルは、たまにあると面白いんですよね。やってるほうはたまんないでしょうけど。
幸四郎のほうは構わずダジャレ満載のセリフを続けます。
「ああしろうこうしろう、大吉かと思ったら米吉……」
う〜ん、ここはぜひ幸四郎のアドリブが聞きたかったところですねぇ。
たとえば、よじれた霞幕を見て、
「ちょっとちょっと、そこ大丈夫。“くるっ”てなっちゃってるよ。まあ、ここどうでもいい場面だからいいんだけどさぁ(笑)焦らずゆっくり直してちょうだいよ……それでは、えーと……何喋るか忘れちゃったよ!(爆)」
こんな感じに。
とっさのアドリブは大変だし、話の流れもあると思うけど、このときは絶好のチャンスだったんだけどな〜残念。
そしてこの後が、名物の時事ネタ風刺の場面!
今回登場したのはこの人──
「どじゃーす」の大谷選手っぽい人!
ズボンの裾を思いっきり上げて足を長く見せようとしたり、
「憧れに憧れるのはやめましょう……」
とか、大谷名言っぽいこと言ったり、ペットのデコピン(大谷選手の愛犬)っぽい犬まで連れてきたり!
幸四郎……やりたかったんだろうなぁ(笑)
場面変わって新吉原中野町
ここでは朝顔仙平(廣太郎)とその仲間たちが登場し、例の「またくぐり」をさせられる場面。
さきほどブ男・権九郎を演じた幸四郎が、今度は主役のイケメン・助六でさっそうと再登場します!
ですが、ここでの私の注目は、助六のお兄さん──
という立場ではない、「白酒売の親兵衛」(橘太郎)です!
仙平たちにいじめられているところを、助六に助けられるだけでなく、重要な情報を持っているという役どころ。
演じるのは橘太郎さんですが……
これがなんとも可愛らしい感じなんですね〜。
またくぐりの様子を、舞台の端にちょこんといて、じっと待っている姿。
まるで何かのマスコットキャラのようです!
映像だと映されないような、こういうところを生で見られるのも、舞台ならではの醍醐味ですね〜。
そして親兵衛が去った後に登場するのが、白鸚さん演じる紀伊国屋文左衛門。
助六を諭して喧嘩をやめさせる──これはいわば、本家『助六』における母親・満江の立場ですね。
しかし、よく見ると白鸚さん、座敷の真ん中で床に穴を開けた掘りごたつのようなところに足を入れて座っています。
膝を曲げられない?歩くのがつらい?ちょっと心配ですね。
大詰め 三浦屋格子先の場
さて、ついに三浦屋前にやってきました。
最初に登場した白玉も再登場し、華やかな遊郭の雰囲気が──
と思ったら、なんか寂しい感じ。
明らかに『助六』のときの、きらびやかな衣裳の花魁たちが並ぶ三浦屋前とは見劣りします。
そして助六と宿敵・鳥居新左衛門(芝翫)も登場しますが、新左衛門はまだ30代の若さ。
『助六』の敵役「髭の意休」と比べると、なんとも小物感がありあり……。
ラストは助六が四天(若い者)たちと大立ち回りを繰り広げますが、
正直言って後半はダウングレード感が強く、いまいち見どころにかけるという感想でした。
最後に印象に残ったセリフをば──
「こりゃいいや、高麗屋!」
お粗末様でした!
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